白の転生
| 夕方から降り出した雨に 傘がないことが悔やまれる。 クリーニングから戻ったばかりのスーツが 台無しじゃないか。 「俺がお前に なにかしたか?」 腹立たしげに空を見上げると 大粒の雨が終わりなどないかの ように 落ちてくるのが見えた。 あの灰色の空の彼方には なにがあるのだろう。 穴のあいた巨大な洗面器か? …ばかばかしい。 革靴のたてるグチュグチュという不快な音を聞きながら 俺は 家路を急いだ。 俺の住むアパートの屋根が見えてきた頃 雨は小降りになっていた。 ドアの鍵をまわす頃には もう雨もやんでいた。 「まったく…」 苦々しい思いで遠くの空を見る視界の端に なにか動くものが あった。 廊下のつきあたりの隅で なにかが動いていた。 「なんだ ネコか。」 白い小さなネコが 濡れた体を舐めていた。 近付いて行くと 俺の靴の不快な音に 灰色の大きな目が警戒の 色を見せた。 「…おいで…」 しゃがみ込んで手を差し出すと 一度は身をかわしたものの 好奇心には勝てないらしく そっと近付いてきた。 「お前もびしょ濡れか。」 指でくすぐると 俺が危害を加えないとわかったのか 気持ち よさそうに 目を細めていた。 「来いよ。」 立ち上がって歩き出すと ネコは俺の数歩後をトコトコと ついて来た。 ドアを開けるとためらいもなく入ってきて 大きな目で俺を 見つめている。 「お互い 災難だったな。 ちょっと待ってろ。」 じっとしているわけはないよな。 早く戻らないと 部屋が濡れてしまう。 あの体でベッドにでも行かれたら… バスルームで着替えをして タオルを手に戻ると ネコは 俺の予想に反して 玄関に座っていた。 「お前 えらいな。」 タオルで拭いている間も 爪も立てずにおとなしくしていた。 どこかの躾の良い飼いネコなのだろうか。 ドライヤーを恐がりもせず 俺に身をまかせていた。 「なかなか かわいいじゃないか。」 |