アルバムの中に あなたの写真を見付けました。
枕元の写真立てに飾ったり 何年も持ち歩いたりもした一枚の写真。
今でもあなたは この笑顔を持っているのかしら?
いつでも私に 真っ直ぐな視線を向けていた瞳を思い出します。
いつも私が見ていたそのままの姿で こんなにも自然にあなたが
微笑んでいたことに 私はどんなに驚いたことか...
間違いなく私だけに向けられていた あなたの笑顔。
もう決して戻ってはこない 過去から切り取られたほんの一瞬。
この写真を写した冬の休日は 私の家でビデオを見ようと あなたが
何本かのテープを持って来てくれた 午後でした。
ホラー映画のタイトルは覚えているけれど 実際に一緒に見た記憶が
ありません。
今でもあの映画のタイトルを目にすると 胸に軽い痛みが走ります。
そして心は遠い過去の 記憶の糸を探りながら...
あの日のあなたの笑顔に 辿り着くのです―

私はあなたの部屋に出入りしている女が 私だけではないことを
知っていました。
あのベッドであなたに触れるのも あなたが触れるのも 私だけでは
ないということも。
あなたが私と一緒にいる夜更けに 誰もいないはずの部屋に灯りが
点いていることも。
あなたは私の前には その影を持ち込まずに接してくれていました。
だから私もあなたには何も言わずに 気付かないふりをしていました。
独身同士なのに 不倫をしているような気分でした―

一度だけ 私が涙を見せた夜を覚えていますか?
閉店間際の酒屋に行った帰り道の車の中でした。
「どうして泣いてる?」にも 「俺が悪いことをしたか?」にも
答えることができず
あなたのその優しさが ただ痛いと感じていました。
「お前が泣いているなら 俺は一人でいた方が良い」と言われました。
私はあなたの前では いつも笑っていたかったのに...
未婚のままのあなたとあの人の間に 小さな命が育っていることを
知っていたんです。
そのことであなたが苦しんでいることも あの人が苦しんでいることも。
もちろんあなたはそんなそぶりも見せずに 毎日のように私と過ごして
くれていました。
それがとても辛くて苦しくて...
あなたが私には隠しておきたい事実を 私が知ってしまったことにも
耐えられなくて...
どんなに好きでも あなたは私の手の届かない遠い人に想えて...
体は目の前にあって寄り添っていても 心は遥か遠くを彷徨っている
ようで...
それがあなたに見せた 最初で最後の涙の理由です―