「見て 北斗七星」
集会場と化したトイレでそんな声が聞こえた。
見るともなしに見ると 群れの一人が仲間に背中を見せていた。
北斗七星に似せた キスマークをご披露しているらしい。
興味津々な様子から 彼女以外は初体験もまだらしい。
「いつ?」
「昨日」
「どんな感じ?」
「泣きたいくらい痛かった」
そんな会話の横を抜けて 私は少し安心していた。
…私だけじゃなかったんだ…
遅い早いの基準はわからないけど 私も初体験済ませ組だった。
罪悪感を持っていたわけでもないのだけれど 私だけじゃないかと
気にはなっていた。
確かに二度と経験したくないくらい 痛かった。
二度と経験することもないのだろうけど…
正直な感想は…好きにはなれそうにない。
抱きあっているだけの方が心地良い。
キスをする方が溶けてしまいそうな程 気持ちが良かった。
後悔はしていないけど 漠然とした疑問が残る。

私の彼氏は七歳年上の社会人。
「卒業したら結婚しよう」
了解はしたものの 私はそれを望んでいるわけではなかった。
彼のことを好きなんだけど 愛していると思うんだけど なにかが
違う気もしていた。
それがなになのかは 自分でもよくわからない。
ただ 一度関係を持ってから なんだか会いたくなくなっていた。
痛いことをされたという 防衛本能が働いているのかしら…
私が二度目を望んではいないというせいもある。
小説の世界では『初めての男を忘れることはできない』らしい。
それは嘘だと思う。
私は…忘れられる。
時々 憎しみさえ感じることがある。
それはどうしてなのだろう…
「あげた」とか「なくした」とか そんな儀式めいた気持ちもない。
ただなんとなく そうなっただけとしか感じない…
別に相手は彼じゃなくても良かったのだとさえ思う。
したくてしたわけじゃないのに そう思う。
だからって したくなかったとも言い切れない。
だって私は 拒否しなかったんだもの。
「どうでも良かった」…これが正直な気持ち。