さわやかな朝だ。
都会では味わえない程の 新鮮さが感じられる。
朝食を終えて 俺は外へ出た。
なんて すがすがしいんだろう。
俺はこのさわやかな空気を 胸一杯に吸い込んだ。

「おでかけですか?」
背後から声がした。
振り向くと 番頭らしい男がいた。
「ええ。
 ちょっと散歩に…」
「お気をつけて。」
「ありがとう。」
男の声に軽く返事をして 俺は歩き出した。
港へ行くには確か…
この坂を降りて行けば良いはずだ。
俺はタバコを吹かしながら ぶらぶらと歩いて行った。

港がすぐそばに見えてきた。
そして 形はよく見えないが あの泡のような物も…
海岸道に沿って 俺は港の先へと行った。
ロダンの『地獄門』を連想させるような 大きな門がある。
あの泡のような物は 門の中にあるらしい。
幸い 門の隙間が開いている。

胸が高鳴り 体が小刻みに震える…
なんということだ。
俺は門の隙間を覗いて 息が止まる思いだった。
あの白っぽい物は 泡でも何でもない…
人だったのだ。
それも 若い女の死体─
死体が無数に 海面に浮いているのだ。
青白い肌からこぼれ落ちそうなくらいに 眼を見開いて…
体が動かない。
俺は門の前から 立ち去ることができなかった。
まるで何者かによって 力を加えられているかのように…

「夢か…」
俺は全身の力が 抜けていくのを感じた。
そして あの気味の悪い光景が 夢だったことに安心した。
と 同時に いてもたってもいられない気持ちに襲われた。
全身に汗を感じ 俺はシャワーを浴びた。
この汗もあの夢も 俺の記憶の一切を シャワーの水が
流してくれたら どんなにすっきりするだろう。

思いきりコックを開け シャワーの水に打たれながら
「忘れてしまいたい」と つぶやいていた。


雫の残る手でタバコに火をつけたが 吸う気にもなれず
灰皿に揉み消した。
なんだか落ち着かない。

このせきたてられる思いは なんだ。
この苛立ちは なんだ。
この焦りのようなものは…
どうすることもできず 俺は─