後 悔

うららかな春の休日。
なにをするというわけでもなく ぼんやりと空を見ていた。
形にならない雲が 音もなく静かに流れていく。
時おり差す陽の光が 天国からの階段のように真っ直ぐと伸びる。
甘い風に乗って舞う 蝶の弱々しさ。
なにもかもが儚く思えてくる昼下がり―

「パパ 見て。」
五歳になる娘が ようやく肩まで伸びた髪を揺らしながら
駆けてきた。
「ステキでしょ?」
小さな耳たぶに 赤いイアリングが揺れていた。
目を輝かせながら 得意気に言う。
「ママに貰ったの。」
オレンジ色がかった 鮮やかな赤い色が脳裏に浮かぶ。
プラスチック製の小さなイアリングを見ながら 俺の心は過去へと
戻っていった。
始まりは いつだったのだろう。
そして 終わりは…

二十歳の春の終わりに 故郷に戻った俺は就職先を探していた。
たまたま入った商事会社で 彼女と出逢ったのは…
確か季節も夏に変わった頃だった。
なんの前ぶれもなく 彼女は俺の心に入ってきた。

「子守りでもしたい気分なんだ。 飲みに行こうぜ。」
誘ったのは俺だった。
「私も子守りがしたいわね。」
…確か彼女は そう言った。
俺の頭の中は 彼女をどうやってベッドに誘おうかと思案していた。
だからその言葉の意味を これっぽっちも考えたりはしなかった。
彼女が五歳年上だと知ったのは いつのことだっただろう。
愚かにも「お前」なんて 呼び続けていた…
知性をたたえた 薄い茶色の目。
意志の強さを感じさせる唇。
猫のようにしなやかな躰―
それを上手に隠していたのは 幼い顔立ちだった。