便りがないのは元気な証拠だなんて 認めたくはないけれど。
いつだって彼が音信不通なときは 奥さんとうまくいって
いる時だ。

「幸せな時は 私が必要じゃないんだものね。」
前にそう言ったら 黙ったままなにも答えてくれなかった。
きっと その通りだと思っていたのよね。
…それでも今までは 長くても二週間位で連絡があったのに
もう一か月が過ぎてる…

もしかしたら 今度こそ終わりかもしれない。
このまま音信不通のまま 彼は奥さんと幸せになって 私は…
私は わずかな可能性をひきずりながら 彼を想いつづけて
いくの?

バカみたい。
涙が出てきちゃった…
「バカ。 大嫌い。」

「9時に迎えに行くから。」
そう彼から電話があったのは 私の誕生日から三日も後。
新しく歳を重ねた私を 真っ先に彼に見て欲しかったのに
ずっと連絡もくれなかったじゃない。

私 怒っていたのよ。
とても 淋しかったんだから…
でも でも やっぱり許してる。
心が許してる。
彼の声を聞いたら 私…
そわそわしてる。
ときめいてる。
十分おきに 時計を気にしている。
車のエンジン音を 待っている。
彼を…
彼が来てくれるのを 待っている。

久しぶりに彼に会えて 気持ちがゆるんでいたみたい…
昨夜は飲みすぎてしまった。
途中でぷっつりと 記憶が途絶えている。
気が付いたら こうしてホテルのベッドにいるんだもの。
まだ隣で寝息を立てている彼を見ながら 思い出そうとしても
ダメ。

なにも思い出せない。
ただ…
なにか彼を困らせるようなことを 言ったような気がする。
聞いてもなにも 答えてくれないようなこと…
もしかして…
奥さんや家庭のことや 私に対する気持ちを 問いつめたかも…

「…ん。」
「頭が がんがんする。」
「のど かわいたな。」
「うん。 …お水。 ねぇ…」
「ん?」
「私 なにか言わなかった?」
「…なにも。」
「本当?
 変なこと 言ったんじゃない?」
「言わなかった。」
「本当に?」
「うん…」
やっぱり言ったんだ きっと…
彼がなにも言ってくれない分 そんな気が強くなる。

奥さんが彼の子供を産んだと知った朝 私は部屋を移った。
私の心には彼がいなくても 平気だという自信があった。
なのに 待ってしまう自分がここにいる。
会いたいとか 恋しいなどという感情とは違うのに 私はなぜ
待っているのだろう。

もし捜し当ててくれたとして 私はなにに満足するのだろう。
ただそれだけで なにも変わりはしないのに…
ただ変わるものがあるとしたら それは…
私の心の 乱れ。

「あ、俺。」
どこか 心の隅にあったような声が 受話器から流れた。
「どうして急に 引っ越したりしたんだ。
 これから行くから 食事にでも行こう。
 …おい 聞こえてるのか?」
「…どうして…」
「今 行くから。」
しばらく忘れていた声だった。
なつかしいような 哀しいような…
うれしいような…
不思議な気持ちだ。
あの頃とぜんぜん 変わっていない。
いつだって 私の不安定な心を無視した 一方的な人だった…
私 なにも返事をしていないのに 彼は一緒に出かけると
思っている。

私 会いたいなんて言ってないわよ。
もし 出かけるのを拒んだら 彼はどんな顔をするかしら。
返事も聞かないで 勝手に来る方がいけないのよね。
今更 会いたいだなんて…
居留守にしようかな…
でも それができないことは 自分がよく知っているものね。
心が彼を待っているんだもの…
エンジンの音が近付く度に 胸をときめかせたりして。
いろいろと言い訳を考えても 言葉で否定しても うそばかり。
結局は 早く会いたくて仕方がないんだわ。
そして…
まだ彼を忘れていない自分が哀しくて こんな私の心を
知ってか知らずか もて遊んでいるような彼が…
憎らしい。

それでも 彼の声に胸が高鳴っていた。
ずっと待っていた声に ときめく…