彼はなんのためらいも見せずに 私を部屋へと招き入れてくれた。
私もなんのためらいもなく 彼の言葉に従っていた。
軽い近況報告と思い出話に 時は流れていく。
帰るきっかけも見つけられずに 夜はどんどん更けていく。
実際 私は帰りたいとも思ってはいなかった。
かと言って このまま彼とまた 時代を共有できるとも 思っては
いなかった。
それを知って知らずか 彼が唇を重ねてきた。
乾いた冷たい唇が 私の心をあの頃へと引き戻していった―

無言の行為の後 耳元の寝息を子守歌のように感じていた。
「早く終われば良いと思ってるだろ。」
性の悦びも知らなかったあの頃 彼にそう言われたことを思い出した。
触れ合うことは望んでいても 行為そのものに悦びを見い出せなかった
あの頃を。
今はどうだろう…
あんなに子供ではない今は…
確信に近いくらい 彼と一体になれた一瞬があったと感じていた。
大人の女として 彼に応えている躰の存在を認めることができた。
朝陽が見えはじめた頃 私は彼の寝顔に口づけをして 部屋を
後にした。
私達の間には 一度として別れの挨拶などなかったあの頃のように―

彼との一夜を思い出しても せつなさはこみ上げてはこなかった。
二度と触れることのないぬくもりに思いを馳せても あきらめの
気持ちは湧いてはこなかった。
なぜだか…やっとけじめが付いたように感じていた。
私の人生の中の 一つの時代が終わったと同時に 新たな時代が
始まったと感じていた。
彼には本当に もう二度と会うことはないだろう―

月の満ち欠けと同じくらいに 狂ったことのない証が訪れなかった。
三日 一週間と日々が流れていっても 兆候はなにもない。
焦りも恐れもない心の中の悦びを 暖かく抱きしめながら二週間目を
迎えた。
一番欲しかった彼自身とは 一緒に人生を共有できないけれど
彼の分身が私の中に息づいていた。
それは私だけの秘密として 生涯心に守っていくことを誓う。

たっぷりとしたレースの白いドレスに身を包まれて ヴァージン・
ロードを歩いて行く。
ウェディング・ベルを聞きながら 一粒の涙がまっすぐに頬を流れた。
きっと誰の目にも 幸せな花嫁のうれし涙と映っただろう。
六月の花嫁は幸せになれるという―
…他の男の子供を宿していても?
望まない男の妻となることを選んだとしても?